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車を買ってまで通いたい鮨屋。真鶴「伊藤家のつぼ」

旅行・おでかけ

車を買った理由を聞かれたら、この店の名前を出す

「なんで車買ったの」

そう聞かれるたびに、少しだけ照れながら答えている。

真鶴の、あの鮨屋に通うためだ、と。

出会いは、お店がまだ東京・八丁堀にあった頃までさかのぼる。

当時から予約という予約は、指のあいだをすり抜ける水のように取れなかった。

ようやく初めて暖簾をくぐれた日、すでに真鶴への移転は決まっていた。

近づけたと思った途端に、遠くなる。

そのことに軽く落胆しながらも、移転までの短い時間を惜しむように、何度も足を運んだ。

出会った瞬間から、もうただの鮨屋ではなかったのだと思う。

真鶴に移ってからは、電車と自分の足だけではとても辿り着けない場所になった。もとより電車という乗り物とはあまり相性がよくないし、子どもを連れていればなおさらだ。

だから、車を買った。

あの店に通うためだけに、と言っても、たぶん誰も大げさだとは思わないはずだ。

予約が取れるのは、本当に運のいい年に一度、多くても二年に一度。

それでもいい。

むしろ、そのくらいの間隔だからこそ、あの一夜が特別なまま色褪せずにいてくれるのかもしれない。

伊藤家のつぼ、という名前について

真鶴半島の、古い家をそのまま抱きしめるように改装した鮨のオーベルジュ。

もともと東京・八丁堀で名を馳せていた大将が、真鶴へと移り住み、静かに暖簾を掛け直した店だ。

大将ご夫婦が営む、小さくて確かな場所。

女将さんがつくる、食べる前から美しい皿

この店に通い続けている理由は、ひとつには絞れない。

そのなかでも、いつも心をつかまれるのが。

女将さんの先付けだ。

皿の上に、いつも小さな景色がひろがっている。

寿司屋の一品というより、季節をそのまま切り取った小さな作品を見せられているような気持ちになる。

檜の枝、木の実、綿の実。

八寸の皿には、食べられるものと、食べられないはずのものが、境目なく並んでいる。

箸をつけるのがもったいなくて、しばらく見惚れてしまう瞬間が、毎回必ずある。

大将の握りと、赤酢のシャリのこと

そして、大将の握り。

「最高」という言葉のほかに、これを言い表す言葉を、まだ見つけられずにいる。

特徴は赤酢を使ったシャリで、口に含んだ瞬間にふわりと立ちのぼる風味の豊かさが、ネタの味をそっと後押ししてくれる。

正直に打ち明けると、あの赤酢のシャリに恋をしてしまって、いまだに自宅の台所でひとりシャリづくりを研究している。

何度酢を合わせても、あの日、あの店で口にした味には届かない。

それでも懲りずに続けているのは、たぶん、あの味をどこかで諦めきれずにいるからだと思う。

いつか、この試行錯誤の記録も、どこかに書き残しておきたいと思っている。

しめは、いつもトロタク巻と決めている

コースの最後には、必ずトロタク巻を頼む。

八丁堀にいた頃から変わらず、一番好きなネタだ。

この一本を食べ終えたとき、ようやく「今日も、来てよかった」という言葉が、静かに胸のなかに広がっていく。

予約のこと、子どものこと

予約は「テーブルチェック」というシステムを通して行っている。

それとは別に、急なキャンセルが出たときには、公式LINEにひっそりと空席の知らせが届くことがある。

その一瞬を見逃さずにいることも、この店に通うための小さな技術のひとつだ。

子どもを連れて行けるかどうかを聞かれることがあるけれど、半個室の席であれば入店できる。

それでも私たちは、子どもは預けて、夫婦だけで訪れることもある。

あの時間だけは、誰かの母親でも、誰かの妻でもなく。

ただの自分に戻って、一皿一皿と向き合いたいから。

行き方のこと

真鶴駅からタクシーでも十分たどり着ける。

運転手さんに「伊藤家のつぼ」と告げれば、それだけで通じるそうだ。

ただ、我が家はいつも車を走らせて向かう。

電車が苦手なことと、子どもがいることと。

それから、あの店へ向かう道のりそのものを、ひとつの儀式のように大切にしたい気持ちがあるからかもしれない。

予約が取れないと知っていても、勧めてしまう

これほど予約が取れない店だとわかっていながら、気の置けない友人には、つい話してしまう。

中学時代からの大親友も、いつのまにか常連になっていた。

それくらい、自信を持って「おいしい」と言い切れる店に、そう何度も出会えるわけではない。

八丁堀にあった頃から、真鶴に根を下ろした今まで。

変わらずおいしくて、変わらず遠くて、変わらず予約が取れない。

それでも二年に一度でいいから、また訪れたいと思わせてくれる店が、私にはこの店しかない。

車を買ってまで通う価値のあるものに、人生でそう何度も出会えないということを。

この店が、教えてくれた気がする。

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※料金・営業時間・予約方法は変更される可能性があるため、訪問前に必ず公式情報をご確認ください

■この記事を書いた人

さこり
小学生と保育園児の子育てをしながら、暮らし・子育て・商品レビュー・副業体験を発信しています。 「好きなものだけで暮らしたい」をテーマに、実際に使ってよかったものをリアルな体験とともに紹介しています。

本記事はAmazonアソシエイト・プログラムの参加者として、紹介料を得ています。商品の価格・在庫状況は記事公開時点のものであり、変動することがあります。

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